2015年11月22日日曜日

聖水にまつわるあれこれ。

ブータンではいろいろなところで聖水を見ることが出来ると思う。道路脇に湧き出ているもの、寺院の近くにあるもの、果てはちゃんと名前もあって効用もあるもの。由来があったりなかったり、まぁそれは様々なタイプが。

なんとなくいいなっと思っちゃうのが、トンサ県にある東西横断道に湧き出ているツェリンマ・ドゥプチュと言われるもの。ツェリンマは神様の名前、ドゥプチュは聖水、との意味を持つこの聖水は、飲めば歌声が女神のごとく美しくなるんだそうだ。まぁ効果の程は…ご自分で体験していただきたい(笑)


実は数年前から困っちゃったなと思っている聖水もある。仕事を担当してる1689年に建てられたと言われるタンゴ僧院の聖水だ。山を背にして建てられたこの寺院、山水が建物の裏から流れ出てきて、建物の下を伝って谷側に面した中庭に湧き出ている。つまり常に建物の下部を流れているということになり、建物の基礎を少しづつ揺るがしている(と思われる)。
タンゴ僧院について僧侶たちが出版したミニ本。なかなか面白い

聖水。かなり干上がっている

あまり状況としては良くないだろうと思うのだけれど、聖水だからまいっか…とブータンだからと達観してお気楽に構えていたのだが、このプロジェクトに関してはいろいろと問題がおきてきた。

まず(勝手に観光でやってきた)西洋人の壁画修復士たちが壁画が貴重だから保存するとか言い出した。改修当初の計画では一般的にブータンではあまり壁画は重要視してないから解体する予定だったのだ。確かにあそこの壁画は天下一品に美しい(そして古い)しかし、壁に塗られた泥のモルタルの上に直接描かれているので壁面を補修しなければいけない場合、保存がとても難しい(ブータンでの現状は破壊されるのを見守るのみ)。

その人達の声があまりにもデカイのと王族にチクったことから事はおおごとに。王族だって政府の上の方の人たちだってみんなこの事(壁を壊すから壁画もぶっ壊れる)を知っていたのに、今更ながらに『世界の宝(らしい)からちょっと再検討すること』なんて言い出した。挙句の果てに、西洋人壁画修復士たちは2年以上も工事を止め、3人の建物の構造の専門家を呼び、その度にレポートが彼らの満足の行く結果じゃないからとまた新しい専門家を呼ぶと言い出した。…正直いい加減にして欲しい…

まぁそれはイライラしちゃうんだけれどどうしょうもないし、時間があるってことはある意味でわたしはわたしの仕事を多方面からみるチャンスかもしれないと思い、いろいろチャレンジしてみた。

そのひとつが『まず聖水止めちゃおう』ってこと。
やっぱり建物には悪影響だと思うわけです、いつも下部に流水があるってことは。

現場監督と相談して、裏にある擁壁を作りなおす時に水の出処を確かめて他に流れるようにしてみた。するとなんと、本当に聖水が枯れたらしい。わぁ~やったね~なんて監督と話していたのだけれど、数日後監督から暗い顔で『僧侶たちが聖水が止まるなんてなにかの悪い兆候なんじゃないかって…』と報告が。

いやいやいや、そんなことないでしょ。『僧侶の矢面に立つのが嫌ならあの日本人の女の人が止めた、オレは言われたことをやっただけだ』って言ってもいいからと言ったけれど、そういう問題でもないらしい。

『建物の下から出てきていたのが建物の裏から出るようになっただけでしょ。同じ水なんだから出るところが変わっただけじゃないの?それを僧侶に聖水が建物の裏から湧き出るようになっても問題ないかって占ってもらったら良いじゃない?』と言ってみたら、顔がぱぁっと輝いて『それはいいアイディアかも!』といってにこやかに帰っていった。

その後、どうなったのか聞いていないんだがどうしたのだろうか…


それを日本人の友人に話したら『由緒正しき聖水を止めた日本人がここにいる~』と大爆笑して、その子が西洋人(確かアメリカ人)に話してその人も大笑いして『まさかあなたって仏教徒じゃないでしょうね?』っていうから『生粋の仏教徒でちゃんと信心してるよ。でも仏教徒であるいぜんに建築士としてここに来てるんだもん』なんて言ったら大爆笑されて『Hilarious!こんな仏教徒がいるなんて!信仰心って!』と笑い転げていた。

ワタクシ的には信仰心があるから(?かどうかは疑問だが・笑)お寺(建物)を守らなきゃいけなくて、その為には聖水は犠牲にしてもいいと思ったんだ。だけど、考え方はいろいろあるよね。聖水が重要なら建物は建て直せばいいじゃないとも考えられるし。

という話を、ブータンのエライ僧侶にしてみた。とりあえずうぅんと唸って、まぁ無くなっちゃったものは仕方ないんじゃないか…まぁ聖水だって昔の誰かが杖で刺したら湧き水が出たとかだと思うし…水道のある現在に重要かと言われるとそうでもないしなぁ…と言ったきり黙り込んでしまった。やっぱり大問題なんだろうか…でもどうしてもやらないといけなかったと思うから後悔はしていない。

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